ブラック企業経験者から見る差別発言

ハッピーバレンタインらしからぬアンハッピーな話を一つ。

私は以前、露骨なセクハラ、パワハラが横行する現場で働いていた。

本社から20人程度の規模のグループ会社に出向する形だったが、直属の上司Aの第一声が
「大体、本社からくる女性はみんな気が強いんだよ」で、
その場にいた部長Bもそれを止めないでヘラヘラしているだけだった。
違和感の始まりである。

新卒で営業職の女性社員は常日頃から「デブ」「ブサイク」などと平気で言われていた。
そのくせ本人はヘラヘラしているのである。

新卒の男性社員に至っては業務時間ですら「童貞」といじられていた。
その社員が初めて女性とデートをした日には社長と役員を含む社員たちが
「うっかり鉢合わせた」体で同じレストランを予約し、その様子を観察していた。
予約場所と日時については、勝手にPCにログインしてチェックしていたのである。
後日、嬉々として「脱童貞」の話題を持ち出しては役員レベルの人たちが盛り上がっている上に、
新卒の男性社員も「童貞」と書かれたTシャツを着させられては脱いで「脱童貞です!」などとふざけていた。

新卒の女性社員、男性社員の言い分は
「自分たちは他所では通用しないような人間だからここに置かせてもらっていて、言われるうちが華なんです」とのこと。
逆にこんな豆粒みたいな零細企業の低俗な現場で通用するような「童貞」自虐など他所では通用しない。

この、自己肯定感を極限まで低くして、「私が食わせてやっている」と洗脳することを一部では「洗礼」と呼ばれていた。
いや、あんなのは「洗脳」である。

その洗脳を行っていたのは、女性社員だった。(以降、Cとする。)
40代で部長職。後から聞けば社長の愛人だった。
飲みの席で社長とちちくり合っているのを見ていて吐き気がした。
逆にそうしていないと部長なんていうポジションは到底厳しいようなスペックの人間だった。
言ってしまえば、プレイヤー時代は全く結果を出さず、管理職になったら要らないところに口を挟むだけの存在。
部下の成果物を否定するだけで全く成果に導こうとしない。部下が自力で結果を出せば我が者顔で「私がやってあげだんです」などと平気で言うような人だった。管理職としては失格である。

CもCで、体で獲得したポジションを理解していたのだろう。その化けの皮が剥がれないように
自分より年下の社員には「アンタは私の下」と言い聞かせることを徹底していたのだ。

Cは社長とズブズブであることもあってか、直属の上司Aも部長Bもそれに逆らえなかった。
だからCが社員にパワハラを行っても何も無かったこととされた。
また、Cのやり方がまかり通っているから、AやBも同じように部下を扱う。
結果、「大体、本社からくる女性はみんな気が強いんだよ」などという発言も許されるという訳だ。

別の現場からやって来た社員や、中途入社の社員にはこのようなやり方は通用しない。
この馬鹿らしい慣習を受け入れて信頼を勝ち取ったとしてもブラック零細企業の惨めなポジションである。
中途入社の社員は1年と続かない人が多かった。入れ替わりが激しい時点で管理不足を指摘されてもおかしくないが
「根性が足りない」「使えなかったから辞めてもらって結構」などという言い分で、自分たちの所為であることは頑なに否定した。
自分たちの居心地が良いようにした結果、都合の悪い部品が無くなっただけだと開き直っていたのかもしれない。
私も早々に転職した。本社に戻る選択肢もあったが、こんな子会社を放置するような本社などは信用できなかった。

「いけない」とされることが許容されることに問題がある。
部下だからってデブと言われたり、童貞いじりをされて良い理由にはならない。
自分が重役に媚びて這い上がってきたとしても、若い世代にそのやり方を強要してはならない。
でもそれを上のレイヤーが許容してしまえば、やって良いことになってしまう。

森喜朗氏の「女性は話が長い」発言で、前職のことを思い出していた。
あの発言だけで辞任するというのはやりすぎという意見があるかもしれないが、
セクハラ、パワハラが許容される現場にいた経験のある人間からすれば「一時が万事」である。

発言こそ些細なものだけど、東京五輪パラリンピック組織委員会長という、国を代表するような立場の人間が差別的な発言をして、
それが許されたら「差別をしても良い」というメッセージになってしまう。

「差別が当たり前」の社会のままであって良いとは、私は思わない。

ゴヨウケンハナニ

私はとてもハキハキしている明るい子供だったが、ある日のちょっとしたことをきっかけにまるっきり変わってしまった。
その、自分の中で「調子が狂った」日のことを今でも覚えている。

小学校2年生の冬だったと思う。同じ絵画教室に通っているMちゃんから自宅に電話がかかってきた。
私は別の習い事で家にいなかったので、帰ってきてから母に折返し電話をするように言われた。

母「Mちゃんから電話がかかってきたから、折返し電話をかけてあげてね。ちゃんと要件を聞いてね。」
私「はーい!」

(電話をかける)
M「はい、X山です。」
私「もしもし、Mちゃん?」
M「あ、ひぃちゃん?」
私「永子だよ。」
M「あのさ、ウチ、先週教室休んじゃったじゃん。宿題出てた?」
私「出てないよ。」
M「そっかー。ありがとう!」
私「うん。じゃあね!」
(電話を切る)

母「ちゃんと要件を聞いたの?」
私「(ヨウケン...?)絵の教室の宿題があるの?って聞かれたんだよ。」
母「要件を聞いたのか?って聞いてるの!」
私「...」
母「じゃあ『ごようけんはなに?』って聞いたの?」
私「聞いてないよ。」
母「何のために電話したのよ!?ちゃんと要件を聞き直しなさい!」

(再び電話をかける)
M「はい、X山です。」
私「...Mちゃん?」
M「あれ、ひぃちゃん?どうしたの?」
私「...ゴヨウケンハナニ」
M「え?」
私「えっと、ゴヨウケンハナニ」
M「どういうこと?」
私「Mちゃんごめんね。なんでもないの。」
M「うん...?そっか。じゃあね。」
(電話を切る)

母「ちゃんと聞けたの?」
私「『ゴヨウケンハナニ』って聞いたけど、分からなかった。」
母「じゃあ聞けてないじゃない!?なんなの!?電話代を無駄にしないで!!」

今思えば私が「絵の教室の宿題があるの?って聞かれた」と答えている時点で母は電話の要件を理解していたはず。
執拗に"要件"を確認する必要はなかった。単純に、母は虫の居所が悪かったのかもしれない。
後になって思い返せば、母は機嫌が悪いと怒る理由を探して怒るような人だったが、そんなことは子供の私には分からないのである。
そして、子供にとって親や教師は絶対的存在である故に、追い詰められる時のダメージは大きい。
私はとても親に従順だった。今となっては単純に萎縮していただけのようにも思う、が。
だからこそ、親に責められたら自分を責めてしまう。

傍から見れば小さな出来事だが、あの日から自分への自信をすっかり失い、大人になってやっと「気にしなくてよかったのに」と思えるようになった。
時が経てばある程度のことは解決するが、あの出来事がなければあの頃、あの大事な時期にもっとのびのびと過ごせていたのだろうと思うと、悔しい気持ちにもなる。

つい先日、子供が道路に飛び出した時に「危ない」と言ってはいけないというような話を聞いた。
というのも、子供は抽象的な言葉を理解できないのだという。
まさにこれだと思った。私は「要件を聞け」と言われても分からなかったが、「『ゴヨウケンハナニ』と聞く」ことはできた。

「相手が分かる言葉で伝える」ということを、大切にしていこう。

はじめに

わたしについて

30代女性 独身
SE、プログラマー

ブログを書く目的

我ながらけっこうしんどい思いをすることが多かったので...
こういう思いをする人が、近い将来、いなくなりますように。
優しい世界になりますように。
っていう気持ちで、過去のことで、ふと思い出したことを書いている。